死と引き換えにでも知られたくなかったこと
2008年 アメリカ・ドイツ合作
ベルンハルト・シュリンクのベストセラー小説「朗読者」を、「めぐりあう時間たち」の監督&脚本家コンビが映画化した作品です。
第二次世界大戦後のドイツで生きた男女の切ない愛と秘密が、息苦しいまでに描かれています。画面も決して色鮮やかではないし、華やかさとは無縁の映画でもあるが、観た人々の心の奥に切々と訴えかけてきます。
人は本当に愛する人のために、何が出来るのか。
その人が望むものを与えることが、その人の人生を狂わせることになろうとも、それをしなくてはならないのか。
自分の抱える大きな秘密を背負って生きる主人公・ハンナ。
彼女の成熟した女性性に魅せられ、しばらくは我を忘れて彼女にのめりこんでしまう15歳の少年。会いたくて学校から走って彼女のもとに駆け付ける姿は、本当に自然な感じの少年そのものです。16歳でオーディションを受け、18歳になってからラブシーンを撮影したという・・・3年間をマイケルとして駆け抜けた新人の俳優さんの成長の記録でもあったりします。初々しい感じが役とマッチしています。
ハンナ役はあの「タイタニック」で一躍有名になった女優さんで、この映画で6度目のノミネートでついにオスカーを受賞しました。
私としては、よくぞそこまでというのが正直な感想です。
役柄的にそうしたんだとは思いますが、中年女性の柔らかくなったお肉をさらけ出し、決して引き締まってはいない身体をカメラの前に差し出しています。このリアルさが、少年の引き締まった肉体美との対比で余計に物悲しく感じられ、暗雲の前兆のように感じられました。
ある日突然、ハンナは姿を消します。
マイケルは、彼女の姿を8年後のナチス戦犯を裁く法廷の被告席で見つけます。
彼だけが知っている彼女の秘密を裁判長に伝えれば、かつて愛した人を救えるかもしれない。でもそれだと、彼女が死と引き換えでもいいから守ろうとした秘密を公にすることになる。彼女の気持ちを尊重すべきか、いや・・・
ありふれた感情ですが、私ならどうするんだろうと観終わった後もしばらくは頭の中でぐるぐるとしていました。
彼がその後も悩みながらの一生を過ごすことになるのは、あまりにも当然といえば当然。しかしながら、そこには彼女への確かな愛が存在したからこその苦悩であり、重い時代を共に生きた覚悟を垣間見た気がしました。
自分がかつて愛した人が必死に守ろうとしているもの。
それは、はたから見れば、命に代えるほどのことではない。
でも、そこにかつて愛した人がいるから・・・どうしてもそのことは知られたくなかったとしたら・・・
彼がたとえその秘密に気付いていたとしても、最後まで知らないふりを通すことが2人の間に流れる愛のひとつのかたちを証明することになったんだと思います。
彼の苦悩の底知れぬ重さがいつまでも心に残る映画です。